デディケート・シフト

ブロック・シフトの話題の時に デディケート・シフトバンチ・シフト の一種である、と書きました。ではデディケート・シフトはどんな場面で使われるのでしょうか。今回はその点をブロッカーの目線で考えてみます。

まず相手が4枚攻撃をしてくることを前提とします。この場合、最低1枚は必ずバックアタックが入ることになります。そのバックアタックはどのスロットからくるか、ということになりますが、昔からの”パイプ攻撃”、近年では”bick”(bicとも)でおなじみのように、バックセンターのプレーヤーがセッターの前から打ってくるケースが一般的です。

そこで相手は狭義のファースト・テンポで、11,31b,51,C1の シンクロ攻撃 をしてくることを想定します。一方ブロッカーは、バンチ・シフト、 リード・ブロック で対応します。さてこの時、ブロッカーはどのようなことを考え、どのようにブロックに跳ぶのでしょうか。
シンクロ攻撃(31b)リード・ブロックは最後に咲うブロック・・・おっとこれはハイキュー!!の音駒高校・黒尾鉄朗選手の名台詞でした、どのアタッカーにセットアップされたかを見極めてから跳ぶブロックです。ということは、ブロッカーはセッターがセットアップする瞬間までアイワークを駆使し頭脳をフル回転させて相手コート内を観察し、予想される相手の攻撃から警戒する必要がないと判断した選択肢を消していき、残されたものからセッターがどれを選択するのかということに注意を払っているわけです。

そうするとこのケースにおいては、ブロッカーは主に相手コートのレフト側に注意を払うことになります。相手アタッカーはセッター前に3、後ろに1で相手の攻撃の選択肢がセッター前の方が多い、言い換えればセッターが自分の背後へセットアップした場合にはC1以外の攻撃はあり得ないのです。したがってセッターが背後にセットアップしたら相手の攻撃はC1であると決め打ちできるのに対し、前方へセットされた場合にはそれが11に対するセットなのかそれとも31b,51に対するものなのかを見極める時間が必要となり、その分だけ相手が打つまでにブロッカーが移動できる距離が短くなります。
ではそれをどのようにカバーするか。こうして相手のレフト側へブロックを最初から寄せておくのはどうか、という発想が生まれます。これがデディケート・シフトです。
デディケート(31b)これで、相手の攻撃が確率的にも高い相手レフト側に対して対応がしやすくなります。ただこのシフトには問題もあります。セッターがC1を選択した場合、ブロッカーの移動距離が長いためにただでさえ「後出しじゃんけん」のリード・ブロックではブロックが遅れる可能性が高くなること、また今のバレーボール(特に男子)で一般的にOPに入る選手はそのチームで一番強力なアタッカーであることから、ブロック全体を寄せて相手OP前をこれだけ空けてしまうことにはためらいが生じるところでしょう。加えて書けば、C1を好きなように決められそれを警戒するあまりにじわじわとブロッカーが広がって スプレッド・シフト に近い状態にされてしまったら、トータル・ディフェンスが崩壊してしまいます。

そこで出てくる対応が、デディケート・シフトを採りつつブロッカーを一人 リリース して相手OPの警戒に当てるというものです。
デディケート+リリースこのようにブロッカーを配置することにより、相手ライトに対しては最低でも1枚はしっかりとブロックをつけられます。また一般的にOHよりもブロック移動が速いMBも、相手ライト側にセットアップされた瞬間に攻撃がC1だと決め打ちして対応できます。さらに言うならば、相手の選択が11だったとしても、スプレッド・シフトよりもこの配置ならリリースされているブロッカーがヘルプに行くことが容易です。

こういったシフトは2016年のリオデジャネイロ・オリンピックの少し前から、国際大会などではかなり見られるようになった印象があります。それだけ、リード・ブロックに対して最も有効であるというシンクロ攻撃への対処として利点があったということでしょう。もちろんブロックが対応してきたら、攻撃側はそれに対してさらに対応します。その内容についてはまたの機会に。