楽してこうぜ百沢ァー!!

これまでに取り上げたブロック・システムディグ・フォーメーションを組み合わせ、ブロックでワンタッチを取ったりスパイクコースを限定してそこにディガーを配置するというトータル・ディフェンスの目的、それは トランジション によって自分たちが ブレイク することです。そこで今回は、相手のスパイクをディグすることに成功した後について考えます。

相手レフトの攻撃に対して、下図のようなディフェンスでバックレフトにいるリベロがディグしたとします。
トランジション・ファーストタッチバレーボールは3回のボールタッチしかできないので、当然ですがあと2回で相手に返さないといけません。味方の選手はトランジションに際し、この後どのように動くのでしょうか。まずリベロが上げたボールをセッターが上げに行きます。またアタッカーは当然ながら助走なしではまともなスパイクは打てません。したがってたとえばスロット0のアタックライン付近にディグしたボールが上がった場合、各選手の動きは次のようになります。
トランジション・セカンドタッチ
トランジション・アタックこの時、一番時間的な余裕がないのはセッターです。またブロックに跳んでいたMB、OPの二人もネット際から下がって打つために開かなければなりません。また今回の例ではディグをしたのはリベロという設定ですが、二人のOHのうちらのどちらかがディグしたりワンタッチボールをつないだ場合には、OH自身が体勢を立て直し助走距離を確保するための時間が必要になります。

ではディグをした選手はそのためにどうしたらよいのでしょうか。もちろん、 Aパス を返すことも大切です。しかしそれ以上に重要なのは、セッターが少しでも余裕のある状態でセットアップできるようにすること、またアタッカーがしっかり助走距離をとれる状態にすることであるはずです。たとえドンピシャでセッターに返っても、セッターがまだセットアップする位置へ走っている状態では苦しいセットアップになります。またセッターが何とか上げても、アタッカーが十分に開けなければ攻撃の選択肢も減りますし、なによりもまともにジャンプできず、結果的に相手ブロックに捕まる危険性が高くなります。つまりセッターやアタッカーが必要とする時間を与えることが役目となります。

そのための時間をどう稼ぐか。ハイキュー!!の読者ならもうご存じですよね。その答えは第217話”楽”(25巻)にあります。ラリー中のファースト・タッチはあえて高く上げる、これに尽きると言えるでしょう。
ただこれが意外と難しいんですよね。バレーボールを実際にプレーしたことのある人は経験があると思うのですが、ラリーが続くと早く決めてしまいたいという思いもあり、だんだんとリズムが速くなって余裕がなくなってきてしまうことが珍しくありません。そのためセットアップは苦しく、アタッカーは助走がとれず高く跳べず、自分で自分の首を絞めることになってしまうわけです。

今回の記事のタイトルである「楽してこうぜ百沢ァー!!」は、自分たちに必要な時間を稼ぐためにファースト・タッチを高く上げることの重要性を”楽”と表現した点も含めて、間違いなくハイキュー!!の名台詞の一つだと思います。今まで気にしていなかった人も、何気ないディグしたボールの高さについて今後注目してもらえると一層バレーボールが面白くなるのではないでしょうか。

※2/14動画リンク追加
通常はレセプションを行わないMB(島村選手)による、近い距離で意識的に高めに上げたレセプション


オーバーハンドによる、高いレセプションが印象的な藤中謙也選手のプレー


バックライトで下がりながらのファースト・タッチのため、高めに上げて自分で助走に入る時間を稼ぐプレー(0:15~) ※ゲス・ブロック がディフェンスの崩壊を招くシーンも同時に見られます


ブロックに当たって戻ってきたボールを高く上げ、アタッカー陣が攻撃に入るための時間を稼いだリベロのプレー(0:06~) ※その前のレセプションも高く上げているため、JTマーヴェラスはチームとしてファースト・タッチを高く!という意識が浸透しているのがうかがえます

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