con man (※2021.9.26追記)

今回も以前の記事の派生です。というか、本来はこれをもっと前に書くつもりでした。

現在、トップレベルのカテゴリーにおいて一般的に採用されている リード・ブロック への、現状における最高の対抗策が シンクロ攻撃 であることは何度も書いてきました。そして少しでも有利な状態で攻撃ができるように、シンクロ攻撃の際に攻撃するスロットを工夫した実例を前回の記事で紹介しました。ではそれ以外にリード・ブロックに対して効果的な攻撃をする方法にはどんなものがあるのでしょうか。

そこで一度原点に戻って、リード・ブロックがなぜ現在、トップレベルのカテゴリーで当たり前のものとして採用されているかを考えてみます。もちろんそれは、「後出しじゃんけんをする事によって正解がわかってからブロックに跳ぶ」からでした。
では後出ししても負けるとすればどんな場合でしょうか。

おわかりの方も多いと思いますが、それはもちろん「選択を間違えたとき」です。相手がグーを出してきたならパーを出せばいいのに間違えてチョキを出してしまったら、いくら後出しでも負けてしまいます。リード・ブロックへの対処も同じで、相手ブロッカーに「どのアタッカーにトスが上がったか」を誤解させればいいわけです。

この方法は、ブログ主の知る限りでは2014年ぐらいには既に使われ始めていて、ある程度一般的に認識されるようになったのは2015年のワールドカップの頃のようです。

さて、では具体的にどのようにブロッカーを引っかけるのでしょうか。現在のバレーボールでよく使われる代表的な例は、11と21b、31と51という2つの組み合わせです。
まず11と21bの組み合わせから見ていきましょう。
21軌道被り・上から青い矢印がトスの軌道、青い丸がアタッカーがボールを打つ位置です。こうやってみると、あれ?と思う方も多いかもしれませんが、続いてブロッカー目線でこれを見てみましょう。
11・21b縦位置(修正版)厳密には打点は多少前後の位置ずれがあるわけですが、リード・ブロックにおいてブロッカーはトスアップされたボールの角度からどのスロットに上がったかを瞬間的に判断しなければいけないので、わずかな前後の違いを一瞬で判断するのは不可能です。単純に確率のみでいうなら、この時点でブロッカーがセットアップ先を間違える可能性は50%あるわけです。

これがもし11と31bの組み合わせだったらどうなるのでしょうか。
11・31b縦位置(修正版)先ほどと違いブロッカーの判断するポイントでトスの角度がかなり違うため、トップカテゴリーのブロッカーであれば十分区別ができそうです。このあたりに、以前はバックセンターからのbickはスロット3からのものがポピュラーだったのに、今はスロット2からのものに取って代わられている理由があると考えられます。

では次に、31と51の組み合わせではどうなるかを考えてみましょう。
31・51の軌道被り(縦位置)(修正版)これもとても毎回正確に判断出来るとは思えません。実際には飛ばす距離が変わる時点で多少トスの初速が変わっているはずですが、前述したようにトスの角度から攻撃してくるスロットを瞬間的に判断しなければいけないブロッカーには、そこまで要求することはできません。ブロッカーからすると、セッターが詐欺師(con man)に見えるかもしれませんね!

明日から始まる東京オリンピックのバレーボール競技においても、この攻撃がたくさん見られるはずです。世界トップレベルのチームがこういった攻撃をどのように使い、また使われた際にどのように対処するか、そういった点にも注目してみるとさらに楽しく観戦できると思います。明日からの予選リーグを一緒に楽しみましょう!

※このトス軌道が重なった攻撃については、順次動画リンクを追加していく予定です

(2021.9.26追記)
なかなか動画として紹介できるものが見つからない(あるにはあるのですが、権利関係の問題でここで紹介するのがためらわれるものが多いのです)ため、ようやく見つけた育成年代のものを1つと、あとは録画等をお持ちの方にどのシーンで軌道を重ねたトスが使われているかをご紹介します。
・11と21の組み合わせ


この他にも動画ではありませんが
VNL2021男子 日本vsポーランド 第2セット ポーランドの5点目
2021アジア選手権男子 日本vsカタール 第1セット 日本の7点目(11とレフトの組み合わせなんですが、返球がレフト方向に寄っているので、結果的に11と21の組み合わせになっています)
・31と51の組み合わせ
VNL2021男子 日本vsポーランド 第2セット 日本の3点目(高橋健太郎の31と福澤達哉の51へのセットの軌道が近く、ポーランドのMBが釣られています)