【ちょっと脇道2】”必殺技”が敗れた日

予定では、トランジション の局面におけるMBの話題を扱おうと思っていたのですが、個人的な観測範囲において、ここしばらくずっと話題になっている問題について触れたいと思います。

バレーボール界で長年、確実に得点できる”必殺技”として行われてきたプレーが、チャレンジシステム という科学技術の前に敗れ去ろうとしています。

このことを知ったきっかけは、こちらの記事でした。
V1男子でブロックタッチのチャレンジ頻発 ルールが変わっていた?
http://vbm.link/49956/
※この動画はバレーボールマガジン様(https://vbm.link/)の上記記事内の動画であり、ご厚意により引用許可をいただいたものです

このプレー自体はバレーボール経験者やバレーボール観戦をしたことのある人ならよく見るプレーの1つだと思いますし、ネット際でのアタッカーとブロッカーの駆け引きを含めて楽しんでいる方も多いでしょう。ところがこのプレーが現在、大論争になっています。

まずこれまでの判定を考えれば、このシーンではジェイテクトの西田選手がウルフドッグス名古屋のブロッカーの手にうまくボールを当ててブロックアウトを取ったのでジェイテクトの得点ということになるはずだ、ということに異論がある人はいないと思います。実際にディグしたボールやトスがネット際に近すぎて打てないときに、同じようにブロックに当てて出して得点にした経験のあるプレーヤーも多いはずです。

しかしこのプレーに対してチャレンジがなされ判定が覆り、ウルフドッグス名古屋のポイントになったことが今回の論争のきっかけとなりました。
論争のポイントはいくつかありますが、このnoteを読んでいただくのが一番分かりやすいかと思います。
「押し合い」の判定が、バレーボールという競技の未来を滅ぼしかねない件
https://note.com/suis_vb/n/n3d31bf6492c1

言われてみればこの”必殺技”は、アタッカーの方が確かに最後までボールに触れている(ケースが多い)気がしますし、厳密にいえばその時にはボールを持って外へ向けて投げていることも多いはずです。実際にそうであることを証明するプレーは現在だけでなく過去にもありました。
8:00~のシーンに注目してください(ブラウザから見る方はその場面から再生されるはずです)

そうであるならば、ボールがコート外に落ちたときには最後にボールを触った選手が属するチームの失点になる、というのがバレーボールの根幹ですから、アタッカーが最後に押し出してボールがコート外に落ちたとしたらアタッカー側のチームの失点になることが本来の姿なのかもしれません。しかしこれまでは攻撃側の得点としてずっと判断されてきたものが、いきなり逆になってはプレーしている選手たちを含めて混乱が生じるのは当然だと考えます。

ではルール上は、どう判定するのが一番正しいのか。FIVBの定めたルールでは、9.1.2.2で次のように定められています。

When two opponents touch the ball simultaneously over the net and the ball remains in play, the team receiving the ball is entitled to another three hits. If such a ball goes “out”, it is the fault of the team on the opposite side.

2番目の文章に注目してください。二人のプレーヤーが同時に触ったボールがアウトになった場合はボールが落ちたのとは反対側のチームの失点となる、と明記されています。このルールに従って判断するなら、アタッカーがブロックにボールを当てて押し出しブロックアウトを取った場合、ボールがネットの自分側でアウトになったならブロックアウト成功で自分たちの得点、相手側でアウトになったらブロックアウト失敗で相手の得点となるはずです。しかし現実はずっとアタッカー側の得点として試合進行がなされ、我々はそのプレーを巡る駆け引きを含め高度な技術の一つとして楽しませてもらってきました。

ところがチャレンジシステムの登場がこの状況を一変させてしまったわけです。
※元Vリーガーの方のツイートです


このプレーはクビアク選手が外に向けてボールを投げているので当然相手側の得点になりそうですが、ルールを正確に適用すれば「二人のプレーヤーが同時に触ったボールがクビアク選手側でアウトになっている」ため、相手側の失点になります。しかしこの結論はさすがに納得しがたい、と感じる人も多いのではないでしょうか。

では、バレーボールという競技を我々がこれまで通り、あるいはこれまで以上に楽しむために、このプレーはどのように扱うべきなのでしょうか。チャレンジシステムの運用の観点からは、この記事で紹介したnoteの内容に同意するところが大きいので、ここではそれ以外の観点からの私見を述べたいと思います。

そもそも、なぜ9.1.2.2のようなルールが定められたのでしょうか。バレーボールのルールの変遷を辿ってみます。

昔はネット上で二人のプレーヤーが同時にボールに触れた場合、ボールを押し合った、つまりどちらもホールディング(現在の キャッチ・ボール)を犯したとしてダブル・フォールトがとられそのラリーはノーカウント、やり直しとなりました。古くからのバレーボールファンなら、押し合いで主審が両方の親指を立てるハンド・サインを出したことを覚えておられる方も多いでしょう。

しかし白熱したラリーが押し合いで止まるのはエンターテインメントとしては避けたいということで、押し合いではダブル・フォールトをとらないというルール改正がなされました。このルール改正が今回の問題の根本原因であるのは間違いないでしょう。
というのは、この記事で紹介した3つの動画を含め、実際にこのプレーを生で見た場合、どちらが最後にボールに触れていたかを人間の目で判断するのは時間が短すぎて不可能だからです。この点は、ルール改正の時に当然問題となったでしょう。主審が「どちらが最後に触ったかわかりません。だから判定不能、ノーカウントでやり直し」ではルール改正をした意味がないためです。

ならばどうするか。そう、どちらのポイントになるかを外観から形式的に判定できるルールを作ればこの問題は解決です。「二人のプレーヤーが同時に触ったボールがアウトになった場合はボールが落ちたのとは反対側のチームの失点となる」というルールはこのような経緯で生み出されたのだろう、と想像しています。

ところが科学技術の発達でチャレンジシステムが登場することにより、ルール改正時の「どちらが最後にボールに触れていたかを判定することができない」という前提が崩れ、「どちらが最後に触れていたか」は白日の下に晒されることになりました。したがってこれまでのように「押し勝った側の得点」とするのは難しく、とはいえ現行のルールのままではネット際のボールは誰も触りに行かない、あるいはボールの押し合いの代わりにボールの引っ張り合いが横行する状況になりかねません。

チャレンジシステムをどのように運用するかということと同時に、これを防ぐルール改正も考えていく必要がありそうです。
まだ突き詰めて考えたわけではありませんが、2つほどなんとなく頭に浮かんでいる案はあります。
1つは押し合いによるダブル・フォールト、ノーカウントを復活させること、もう1つは押し勝った側の得点にしてしまうことです。
個人的には、我々が楽しんできた高度な駆け引きや技術を引き続き楽しむためにも、押し勝った側の得点にするというルール改正を推したいと思います。皆様はいかがお考えでしょうか。

最後になりましたが、記事中の動画を引用することを許可してくださったバレーボールマガジン様(https://vbm.link/)には、改めて厚く御礼申し上げます。

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