明日に架ける橋
東京オリンピック準々決勝で、男子日本代表はブラジルにセットカウント0-3のストレート負けを喫し、全ての日程を終えました。
いやあ、ブラジルは本当に強かったですね!サーブ、スパイク、 リード・ブロック とフロア・ディフェンスの連携によるトータル・ディフェンス、素晴らしいチームでした。
中継の時の説明によると、日本代表はブラジルに対しての連敗が現在30以上になっているそうです。それでも昨日の敗戦はこれまでとは異なり、2024年のパリオリンピック、そして2028年のロサンゼルスオリンピックという未来への期待をつなぐ架け橋となる敗戦だったと思います。
試合を振り返ると、第3セットこそ完全に主導権を握られ圧倒されましたが、第1セットはリードされる展開ながらもなんとか1~2点差でついていくことができていました。日本の頑張りによって、あのブラジルが多少バタバタするケースも見られました。また第2セットは17-14までリードする展開を作れていました。いずれのセットも、20点付近になるとブラジルのギアが一つ上がり逆転されてしまいましたが。強いチームはセットの終盤にたたみかけてくる強さがあるのだな、ということを思い知らされるような展開でした。
とはいうものの、昨日の試合を見て思ったのは「現在の世界最強の一角であるブラジルといえども、手の届かない別世界にいるような存在ではない」ということでした。特に第2セットに現れていましたが、日本がやりたいこと、すなわち現在のバレーボール界のトレンドである「サーブで崩して相手の攻撃枚数を減らし、何とかブロックで引っかけて シンクロ攻撃 で トランジション」ができていた間は、ブラジルといえどもそう簡単にはそれを防ぐことはできませんでした。またこの数年、各国が対策に苦労しているフェイク・セット(通称ヌガペ)を石川選手が何度も見せ、相手を振り回していました。これらからうかがえることは、今やっていること、やろうとしていることは決して間違っていない、時間はかかるかもしれないが今の歩みを続けていけば世界に追いつけるはずだ、ということです。
昔、日本男子バレーボールはミュンヘンオリンピック(1972年)で金メダルを獲得し、次のモントリオールオリンピックでは4位となりメダルを逃したそうです。しかしこの頃のことはよく知りません。世代的に知っている可能性が高いのはモスクワオリンピック(1980年)あたりからなのですが、男子バレーボールはこの大会の出場権を獲得できず、しかも日本は参加をボイコットしたため、同様によく知りません。そんなわけでロサンゼルスオリンピック(1984年)以降のことを振り返ってみると、日本男子バレーボールはロサンゼルス以降のオリンピックではなかなか勝てず、またバルセロナオリンピック以降は出場権すら獲得できない大会が続きました。
その頃からロンドンオリンピックの出場権を失った頃までのことを思い起こせば、目指しているものが世界が進んでいる方向とは異なる状態での敗戦の連続でした。目指しているものが本当に実現可能なのか、実現できたとして勝てるのか、という検証がされないまま「体格で劣る日本は世界と同じことをしていては勝てない」「だから日本オリジナルが必要だ」という主張が幅を利かせ続けてきました。それが敗北の山を築き、本来であればもっともっと世界レベルで活躍できたであろう選手たちの可能性の芽を摘んできました。
今、ようやくその連鎖が断ち切られ、「世界と同じこと」ができれば十分に戦えるということが浸透し始めました。そこで日本代表の今後の課題を考えてみます。
当面の課題は
・サーブの強化
・リード・ブロックの徹底
・セッターの大型化
ではないでしょうか。
現代のバレーボールにおいては、サーブが弱くては話になりません。昨日のブラジル戦でも、「ここで強力なサーブを放てるリリーフ・サーバーがいてくれたら!」と思う場面がやはり何度かありました。また2019年から公式球がMIKASAのMVA200からV200Wに代替わりしたことにともなって、ジャンプ・フローター・サーブの変化が小さくなり、メリットが小さくなっているように感じます。そのため、今後は強力なジャンプ・サーブが基本でアクセントにハイブリッド・サーブを1~2名、というチームが主流になるのではないかと想像しています。当然日本も、強力なジャンプ・サーブを打てる選手がもっともっと必要とされるでしょう。
そして日本にとって最大の弱点である、リード・ブロックの強化は必須です。昨日のブラジル戦においても、ブラジルとの最大の違いはブロックでした。日本はリード・ブロックがまだまだ未熟なため、「オプション」という割り切った対応をせざるを得ませんでしたが、これではやはり相手のOH・OPに対するブロックが1枚になったり、サイドからの攻撃だと思っていたら中央から速攻や bick を仕掛けられてノーマークにしてしまった、ということが起こりがちなのです。今後に向け、アイ・ワークやブロック・ステップを洗練させ、反応&移動速度を向上させることが喫緊の課題と言えるでしょう。
セッターの大型化は日本バレー長年の目標にして達成することができていないものです。しかしVリーグをみても、従来よりは大きなセッターが出てきています。
大型セッターはボールを扱う位置も高くなるため、 レセプション がネットを越えてしまうリスクをまず減らすことができます。またトスアップする位置も高いため、必然的にアタッカーの打点までの距離が短くなりますので打点に到達するまでの時間もその分早くなります。なにより高いところから高いところへのトスアップでは、トスの軌道を見て飛ぶリード・ブロックからすると、トスの角度が重なりやすくどこに上がったかの判断が難しい面があります。※こちらの記事で触れました
すぐというわけにはいかないかもしれませんが、彼らの台頭を待ちたいと思います。
パリオリンピックへ向けての戦いは既に始まっています。男子日本代表は良い位置からのスタートになります。彼らの更なる飛躍・活躍が楽しみでなりません。