S1ローテにおけるレセプション・アタック

前回、S1ローテにおいて相手がどのようなことを考えてサーブを打ってくるかという点について、3つのケースを例に挙げて触れました。今回はどうやって相手の思い通りにはさせずにサイドアウトを取るか、ということを見ていきたいと思います。

まず前回の1つ目のケースについて。
レセプション・アタック1

前衛OHがこのような状態でレセプションをした場合、レセプションした体勢から助走距離を確保するために開く時間が必要になります。したがってその時間を稼ぐためには、まずレセプションの際に膝をついたり倒れたりしないことが重要です。膝をついたり倒れたりしてしまうと起き上がるための時間が必要となり、特に倒れてしまった場合には他のアタッカーとシンクロしてのファースト・テンポの攻撃ができなくなってしまうためです。また立ったままレセプションをしたとしても、助走距離を確保するための時間が必要ですから、レセプションがすぐにセッターへ返ってしまっては困ります。そのため、レセプションの際にはボールを高く上げることを意識しなければなりません。

このレセプションを高めに返すという点は、現代バレーにおいてもはや当たり前というか定石になっていると言っていいでしょう。この流れを取り入れずコートの上にロープを張り、そのロープを越えない低く速いレセプションからの攻撃という「ワンフレームバレー」を目指した女子の日本代表が東京五輪でどのような成績で終わったかは、みなさんもご存じの通りです(もちろん惨敗した原因はそれだけではありませんが)。

前回の2つ目、3つ目のケースについても、この点は変わりません。
レセプション・アタック2前衛OHが攻撃にすぐ入れるようにリベロがカバーに行ったとしても、リベロ自身が前衛OHの攻撃を邪魔しないように退避するための時間を稼ぐ必要があります。
レセプション・アタック3相手の思い通りにスロットを限定されないよう、例えばMBにA1を打たせようとしても、セッターの背後付近でレセプションをしたリベロがいてはそこに走り込めません。よって、この場合でもリベロ自身が退避するための時間を稼がなければならないことは変わりません。

このようにコート内の3~4人の動きを見ただけでも、広いはずのコート内がかなり大変なことになるという雰囲気は伝わると思います。そんなドタバタしやすいコート内を落ち着ける意味でも、レセプションやディグといったファースト・タッチを高く上げるのはシンプルではありますが大切なことでもあるわけです。

そしてレセプション・アタックの場面ではありませんが、ハイキュー!!にもこの「リベロがアタッカーの助走の邪魔になる」シーンの描写があります。単行本では第25巻の第222話・223話、アニメではハイキュー!! TO THE TOP第7話の、西谷が東峰のバック・アタックの助走ラインを塞いで影山に指摘される場面です。単行本やアニメのBlu-rayをお持ちの方は、この機会にもう一度見てみるのも面白いはずです。

さらに上記に加えてOPが特に左打ちの場合にS1ローテが難しいのは何故だったかというと、それはルールの制約上、左打ちの選手が最大の攻撃力を発揮できるライト側ではなく前衛レフト側に位置せざるを得ないからでした。それならS1ローテにおいてもなんとかOPに前衛ライトから打たせられないか、という話になりますし、実際にそのようなやり方を採用しているチームもあります。この時に問題になる点は2つあると考えます。

まずライト側までOPが移動するための時間が必要になるので、必然的に攻撃に入るタイミングが遅れやすくなることです。せっかくOPがライトから攻撃できたとしても、他のアタッカーとの シンクロ攻撃 が成立していなければその効果をフルに発揮できませんから、ここでもレセプションを高く返すことが大切になります。
次に、OPがライト側に移動する際にどこを通るか、という問題です。考え方としては2つあります。
1つ目はなるべく直線的にコート内をライト側に突っ切る方法、2つ目はコートの後方を大回りしての移動です。そこで、これら2つについての長所・短所を考えてみたいと思います。
OPのライト移動1まずは直線的に移動する場合、メリットは一目瞭然ですが移動距離が短い(=移動にかかる時間が短い)ことに尽きます。そのため、ファースト・テンポのシンクロ攻撃への参加がしやすいわけです。しかしデメリットも同じく一目瞭然ですよね?レセプションを担当する3選手の前を横切るため、味方に対して自分がその視界を塞いでしまうわけです。しかもサーブの狙い所によってはレセプション担当と交錯したり、サーブに当たってサービスエースを献上してしまうリスクがあります。
OPのライト移動2一方、コートの後方を大回りしての移動の場合には、メリット・デメリットは直線的に横切る場合とちょうど逆になります。レセプション担当の選手たちの邪魔になるリスクは大きく減少しますが、その代わり移動にかかる時間が長くなるために、ファースト・テンポでシンクロすることの難易度が上がります(その時間を稼ぐためにも、やはりレセプションを高めにセッターに返すことは大事なのです!)。また相手サーブにゾーン1の一番奥、つまり自陣のバックライトの角を狙われた場合には、やはりレセプションをする選手と交錯する危険があります。

このように見ていくと、OPをライトに回して本来の攻撃力を発揮してもらおうというのもなかなか難しいことがわかります。これが男子日本代表に限らず、世界でも多くのチームがS1ローテにおけるレセプション・アタックを課題としている理由でもあります。その結果、S1ローテでは無理にOPをライトに回り込ませず、レフトから打たせる戦術を採用するチームも多くあります。男子日本代表もそうであり、個人的な印象では清水邦広選手はレフトからでも割とあっさりブロックアウトによるサイドアウトを取っているように思います。この点に関しては、西田選手はまだ清水選手には及ばないという感じでしょうか。もっとも成長著しい選手なので、まもなく追いつき追い越すような予感も十分あります。

ただしここまでの話はレセプションがいわゆる Aパス、Bパス レベルでセッターに返った場合の話で、大きく崩れてハイセットでの勝負になればOPがライトに回っていた方がよいでしょうから、そういった点も加味して考えればライトに回り込むメリットもそれなりにあり、一概にどちらが優れているとは言えないのも確かです。

今週からV.LEAGUEも始まりましたので、各チームがS1をどのように乗り切ろうとしているか、注目して観戦してみるのはいかがでしょうか?